二次創作に関することを中心に後ろ向きに呟いております
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波間をたゆたうように、ゆらゆらと、ゆらゆらと、沈んでゆく。凪いだ意識の中で薄っすら目を開けると、虹色のシャボン玉がぷくぷくと泳いでいた。ジョセフは、手を伸ばした。
Phantasmagoria
Phantasmagoria
手を伸ばすと、シャボンは空気に押されてジョセフの手を避ける。ようやく掴めばたちまちかき消える。その虚しさに僅かに心が痛んで、シャボンを追うことを止めた。雲の上を歩くような感覚で、虹色のシャボンの元を辿る。若々しく引き締まって、青春を謳歌する年頃の肉体はなぜか奇妙に力が入らず、ゆらゆらと、視界は不思議にゆらいで見えた。
(――これは何だ、)
一歩ずつ、実感を伴わないで前に進む。まるで空中を闊歩しているかのように身体はふわりと軽い。空を泳いでいるようだった。ふわふわとシャボンをかき分けて進んで行く。次第に虹色が濃くなっていく。ジョセフの周りでシャボンがぱちりぱちりと弾けて消え、また新たに生まれ、また消えていく。その繰り返しに、ちくりと心が痛んだ。ジョセフが堪え切れず手を伸ばせばまたシャボンは消える。ぱちりぱちり、ぱちりぱちりと、シャボン玉は儚く割れて融けていく。
(厭だ)
心が苦しい。不思議なほどに広くぼやけた空間の中で、ジョセフは一人ずきずきと心を痛めた。追えば逃げる。捉えれば消える。消失の痛みだけがジョセフに残る。それはひどく恐ろしいことだった。
苦しさを堪えながら歩んで行くと、やがてシャボンの幕の向こうに、ストローを加える人影が見えた。シャボンは耐えずその人影から発せられている。ジョセフは目を凝らした。やわらかなブロンドの髪。ジョセフに負けず劣らずの長身。若々しい肉体。その男のシルエットを見て、ジョセフはハッと息を飲んだ。奇妙な懐かしさ、高揚感、愛しさ、苦しさ、感情がない交ぜになってジョセフの胸を締め付ける。消失の痛みよりもずっと苦しい。慌てて駆けだそうとするも、ゆらゆらと足元が安定せず、まろびながらまろびながら、ジョセフは前に進んだ。必死に。必死に前に進む。ジョセフの手が空を掻く。しかし男との距離は一向に縮まらない。歩んでいる素振りも見せないのに、ジョセフが前に進めば進むほど、男はその先へいってしまう。待てよ、待てよ!ジョセフは呼びとめようとしたが、何故だか腹から声が出ない。地団太を踏んだ。その感覚すらジョセフの足には伝わらない。空間は揺らぐ。その間にも男のシルエットはゆっくりゆっくりと遠ざかっていく。なんでだ。なんでだ。どうして。俺はお前を追いかけているのに。
涙が零れる。ぼたぼたと大粒の涙が頬を伝う。どうして追いつけない。なぜお前は俺を置いて行くんだ。待ってくれ。待ってくれ、お願いだ、俺は、お前がいないと、
「シ、」
口を衝いて、ジョセフは、その男の名前を、――
は、と、目を開いた。高い天井と、自分を覗き込む若い男の姿があった。黒く濡れた青年の瞳が真っすぐにジョセフを捉えている。目を瞬かせ、ジョセフは小さく、あ、と、呟いた。
「ジジイ、どうした、」
青年、承太郎が、訝しげな顔で言う。ジョセフはがばりとベッドから起き上がると、年老いた自分の両手を見た。義手と、それから、皺の刻まれて硬くなった手を。そして、顔をあげて、若々しい自分の孫の顔を見た。呆けたようにしているジョセフを見て、承太郎は小さく舌打ちをした。サイドテーブルからティッシュ箱を拾い、ジョセフに投げつける。
「顔を拭いとけ。良い歳のくせに、何で泣いてやがんだ、ジジイ」
「承太郎、……ワシは――、……俺は、」
途端に堰を切ったように涙があふれ出した。承太郎はハッとして祖父を見た。祖父は見たこともないような、まるで幼い子供のような顔で、ひたすらにわんわんと泣いていた。ゆらりと祖父のシルエットが揺らいだ――黒髪の青年が、承太郎とさほど変わらない年齢の男が、大粒の涙をこぼしていた。
「――ジジイ、」
承太郎にどうしてやることも出来なくて、ジョセフの頭に伸ばしかけた腕は、そのまま下げられて、小さな握りこぶしを作った。
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JOJO
(どちらにしろもどかしい話)
(――これは何だ、)
一歩ずつ、実感を伴わないで前に進む。まるで空中を闊歩しているかのように身体はふわりと軽い。空を泳いでいるようだった。ふわふわとシャボンをかき分けて進んで行く。次第に虹色が濃くなっていく。ジョセフの周りでシャボンがぱちりぱちりと弾けて消え、また新たに生まれ、また消えていく。その繰り返しに、ちくりと心が痛んだ。ジョセフが堪え切れず手を伸ばせばまたシャボンは消える。ぱちりぱちり、ぱちりぱちりと、シャボン玉は儚く割れて融けていく。
(厭だ)
心が苦しい。不思議なほどに広くぼやけた空間の中で、ジョセフは一人ずきずきと心を痛めた。追えば逃げる。捉えれば消える。消失の痛みだけがジョセフに残る。それはひどく恐ろしいことだった。
苦しさを堪えながら歩んで行くと、やがてシャボンの幕の向こうに、ストローを加える人影が見えた。シャボンは耐えずその人影から発せられている。ジョセフは目を凝らした。やわらかなブロンドの髪。ジョセフに負けず劣らずの長身。若々しい肉体。その男のシルエットを見て、ジョセフはハッと息を飲んだ。奇妙な懐かしさ、高揚感、愛しさ、苦しさ、感情がない交ぜになってジョセフの胸を締め付ける。消失の痛みよりもずっと苦しい。慌てて駆けだそうとするも、ゆらゆらと足元が安定せず、まろびながらまろびながら、ジョセフは前に進んだ。必死に。必死に前に進む。ジョセフの手が空を掻く。しかし男との距離は一向に縮まらない。歩んでいる素振りも見せないのに、ジョセフが前に進めば進むほど、男はその先へいってしまう。待てよ、待てよ!ジョセフは呼びとめようとしたが、何故だか腹から声が出ない。地団太を踏んだ。その感覚すらジョセフの足には伝わらない。空間は揺らぐ。その間にも男のシルエットはゆっくりゆっくりと遠ざかっていく。なんでだ。なんでだ。どうして。俺はお前を追いかけているのに。
涙が零れる。ぼたぼたと大粒の涙が頬を伝う。どうして追いつけない。なぜお前は俺を置いて行くんだ。待ってくれ。待ってくれ、お願いだ、俺は、お前がいないと、
「シ、」
口を衝いて、ジョセフは、その男の名前を、――
は、と、目を開いた。高い天井と、自分を覗き込む若い男の姿があった。黒く濡れた青年の瞳が真っすぐにジョセフを捉えている。目を瞬かせ、ジョセフは小さく、あ、と、呟いた。
「ジジイ、どうした、」
青年、承太郎が、訝しげな顔で言う。ジョセフはがばりとベッドから起き上がると、年老いた自分の両手を見た。義手と、それから、皺の刻まれて硬くなった手を。そして、顔をあげて、若々しい自分の孫の顔を見た。呆けたようにしているジョセフを見て、承太郎は小さく舌打ちをした。サイドテーブルからティッシュ箱を拾い、ジョセフに投げつける。
「顔を拭いとけ。良い歳のくせに、何で泣いてやがんだ、ジジイ」
「承太郎、……ワシは――、……俺は、」
途端に堰を切ったように涙があふれ出した。承太郎はハッとして祖父を見た。祖父は見たこともないような、まるで幼い子供のような顔で、ひたすらにわんわんと泣いていた。ゆらりと祖父のシルエットが揺らいだ――黒髪の青年が、承太郎とさほど変わらない年齢の男が、大粒の涙をこぼしていた。
「――ジジイ、」
承太郎にどうしてやることも出来なくて、ジョセフの頭に伸ばしかけた腕は、そのまま下げられて、小さな握りこぶしを作った。
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JOJO
(どちらにしろもどかしい話)
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