二次創作に関することを中心に後ろ向きに呟いております
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Pathos
「あとべ、」
低く甘い声で呼ばれて背筋がぞくりと粟立つ。夕暮れ時の薄暗い部室内には俺と忍足の二人しか残っていなかった。俺は僅かな動揺を悟られないように日誌にペ ンを走らせながら、なんだと事務的な返事を返した。とたんに溜息のような笑い声が忍足の唇から洩れる。邪魔をされて迷惑だという表情を精いっぱい崩さない ように顔をあげると、濡れたような瞳が細められて、俺をじっと見据えていた。
「なあ」
「――用がねえなら、邪魔すんな」
「そう、怒らんといてよ」
そういってまた短く笑う。その微かな吐息も、煽るような視線も、すべて分かっていてこいつはやっている。俺は小さく舌打ちをして(これにも「どうしたんや」とやわらかい声で俺を煽る)日誌を閉じた。筆記用具をバッグの中へ乱暴に押し込める。
「帰るん、」
「――やることは終わった」
「そう」
帰ってしまうんやなあ、とつまらなそうに口をとがらせて、それでも忍足の瞳はにたりと嗤っていて、俺は胃がきゅうと締め付けられる思いだった。細められた 黒い瞳は、俺の心の内をどこまでも侵食して、じわりじわりと食んで、俺を捉えて逃がさないようにと絡みつく。甘い声は俺の脳内を甘く犯してびりびりと痺れ る。それをすべてわかっているのだ。すべて、
「なあ、あとべ、俺な」
ダメ押しのように囁かれたその甘い声を途中で乱暴に塞いで、どきりとするほど柔らかな唇を貪る。温かくて湿ったくちの中をぬるりと舌で辿ると、忍足もゆる りと自分のそれを絡めてきた。微かに甘い声を上げる癖に、腹立たしいほどの余裕があった。お互いに酸欠になる直前まで口づけをして、ようやく離れるとつう と糸が引いた。ぺろりとそれを舐めとって忍足は猫のように笑う。
「自分、帰るん?」
「――お前、性質悪ィ」
「おおきに。……跡部は、そうでもないようやな」
俺の余裕のないのすら見透かして、忍足はくすりと微笑んだ。返答するのも馬鹿馬鹿しくて、俺は忍足の首筋を少し強めに噛んだ。
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