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二次創作に関することを中心に後ろ向きに呟いております
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心なしかBL臭い気もするがそんなことはなかったぜ!
キラー(苦労人)とローの話 これで前編ってうそだろ


Humming of drunken man -the first volume-


「そんで、なんでお前は、ユースタス屋の部下をしてんだ?………
 ふ、弱みとかそういうの、握られてんじゃねェのか……きっとそうだ。そうに違いねぇ」
「酒に弱いのか?」
「まだ半分空けてねェんだ、酔うわけがねェだろうが!」
「………」

 どうしてこんな状況になっているのだろうか。有頂天に浸っているトラファルガー・ローの二つ隣の席(どれだけ距離をとろうとしても、この小さな店ではこれが精一杯だった)で、俺は溜息をついてから、カクテルを口に含んだ。あまり期待はしていなかったのだが、上品な甘みと酸味が広がる。最近呑んだものの中で考えれば、かなりの上位に入る腕前で、一言伝えようとカウンター内を見ると、老練のバーテンダーはもう店の裏に姿を消していた。なるほど気の利いた店である。
 既に素面とは程遠いトラファルガーの前におかれている酒瓶を見る。その洒落たラベルには見覚えがある。非常に高い度数で有名な、ノース・ブルーの特産品だ。以前キッドが持ち込んで、わずかな量でも船員全員がほろ酔いになるに十分な酒だった。キッドはけろりとしていたが。そして、いま目の前の瓶はおそらく半分も空になっていないが、この男はすっかり出来上がっていた。この酩酊状態ならたやすく首を掻き切ることが出来るだろうが、そんなことをしては殺戮武人の名が廃る。呂律の回らないトラファルガーのくだらない問い掛けをあしらいながら、俺はこのような事態になってしまった経緯を振り返ることにした。



 港もない小さな島だ。キッドは町に向かうと云ってさっさと船を降りてしまった。大きな騒ぎを起さなければいいがとこっそり思いながら(せめて必要なものの買い出しが終わるまでは)、俺はほかの船員たちと適当に役割分担をし、そして久々の地面を踏みしめた。
 島の中心には小高い丘があり、その中腹にこれまたこじんまりとした町があるようだ。船からまっすぐに砂浜を切って、そこへ向けてキッドの足跡が伸びている。俺はその跡を辿りながら、ふと海岸ではしゃぐ子供たちのそばを通りがかった。此処で俺は戸惑った。
 彼らは俺の姿を認めても、恐怖するどころか、にっこりと歯を見せて笑ったのだ。それから、どこから来たのだとか、何をしにきたのだとか、口々に俺に尋ねてきた。その目は全く純粋無垢で、俺は思わず背がぞくりと震えた。

「ねえ、お兄ちゃんは、さっきの人のお友達なの?」
「さっきの人?」
「髪の毛つんつんのおっかない人だよ! うるさいって怒られた!」
「……そうか。それは、あとできちんと叱っておかなくてはな。
 それより、どこかに酒場はないか」

 彼らは少し首を傾げた後、よく日に焼けた小さな手を活発に動かし、全身で街の地図を表現して見せた。俺が礼を言うと、得意げに鼻を指でこすった。俺はその無邪気な笑顔に妙に喉がむず痒くなり、子供の癖っ毛の頭を軽く叩いてやってから、首を振り振り、太陽の光を反射する真っ白な砂浜を歩きだした。

 小さな島だ、酒場はすぐに見つかった。バーテンは俺が店に入ると静かに会釈をし、無言でカクテルの入ったグラスを俺の目の前に置いた。マスクを外してふと右を見たとき、そこで泥酔状態のトラファルガーを発見したのだった。この時ほどマスクの視界の悪さを恨んだことはない。すぐに戦闘態勢を取ろうとした俺を、一生忘れられないような間抜けた笑顔で静止して、トラファルガーは上機嫌で俺を会話相手に選んだのだった。

(全く迷惑な話だ)
「そういやぁ、あいつはいねぇのか? ユースタス屋は」
「さあな。この近辺にいるとは思うが」
「そりゃあ……残念だ。良い話ができるか、と、思ったんだが、」
「………。
 おい、もう止せ、酒を呑むのをやめろ、トラファルガー」
「なに言ってやがる。俺のことバカにしてんのか……、ああ、消されてぇんだな?
 本当に、お前らの、とこは、物騒だな、ああやだやだ」
「………」

 トラファルガーは徐々に言葉が途切れ始めているのにも構わず、再び瓶を傾けて、ジョッキに並々と琥珀色の液体を注ぐと、口をつけた。敵を心配するのはどうかと思うが、それでもあまりに危険だ。このままこいつが酒を飲み続けたら何をしでかすかわからない。俺は横目でトラファルガーを観察しながら、こちらもグラスを傾けた。北国出身の割には深い色の肌だ。形のいい耳に金色のピアスが二つ下がっていて、真黒な髪の毛がふかふかした帽子からはみ出している。中々おかしな趣味の帽子だが、不思議とこの男には似合っていた。もしかすると、ある種の無邪気さが宿っているのかも知れない。
 突然小さく唸ると、トラファルガーはジョッキごとカウンターに突っ伏して、動かなくなった。俺は何かのトラップかと疑い、少しの間冷静に様子を窺った。やがてゆっくりと肩が上下し始めたのを見て、どうやら泥酔の結果、ついに夢の世界へ航海を始めてしまったようだ。二億ベリーの賞金首ともあろう男が、こんな無防備な姿を他の海賊の前で曝していいのだろうか。

「おい、トラファルガー」
「………」
「寝ているのか?」
「…んぁ………寝……」
「………ったく」

(俺を、莫迦にしているのか、)

「仕方がない。…とことん莫迦になってやろう」

 俺は深くため息をつくと、二人分の料金をカウンターに置いた。

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