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二次創作に関することを中心に後ろ向きに呟いております
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追記からどうぞ

 何をしているのかと言われたら、特に何をしているわけでなかった。何を考えているのかと言われたら、特に何も考えていなかった。ただ空を見つめていたのだ。それで何か得るものがあるのかと言われたらもちろんノーだし、というかそもそも空を見つめることに意義を見出そうなんて欠片も思っちゃいない。そりゃあ粋でないというものだ。理由を求めてはいけないことの方が世の中にはたくさんある。そう言ったらずいぶん悟ったような言い方をするもんだな、と奇抜な服装の海賊は鼻で笑った。
 まことによくわからない状況だが、俺とユースタス屋は偶然この諸島の外れの小道で遭い、狭い道だったもんでどちらかが道を譲らなくてはいけなかったんだが、当然どちらも引こうとしなかった。そこで俺は刀の鞘で地面に何気なく線を引いた。そのラインから出るまいと思った。ユースタス屋も、当然そう思った。くだらない意地の張り合いだ。膠着状態はすでに一時間以上続いており、いい加減俺は船員たちに怒鳴られそうだなと思いながら、とりあえずぼけっと空を見つめていた。俺はよく空を見る。

「非生産的だな」
「うるせぇな。海賊行為だってハイリスク・ローリターンだろうに。この時間含め」
「そりゃあてめぇがさっさと道を開けねえからこんなことになったんだろうが!」
「お前が一歩引けば、俺がここを通れたんだ。お互い様じゃないのか」
「チッ………」

 腰に下げていた酒瓶をあおると、ユースタス屋は近くの空の樽に腰をおろした。俺は十分過ぎたあたりで木箱に腰をかけていたが、そういえばこいつは一時間ずっと立ち通しだった。よく考えたら恐ろしいことだ。そんなことをしたら足がむくんでしまう。俺は脚を組みかえながら再び空を見る。立ち上るシャボン玉の向こうに、白熊のような雲が浮かんでいる。そういえば俺と同じく「ルーキー」とか呼ばれているウルージとやらは、空島というところからやってきたらしい。この航海を始めてから全く初めて耳にする言葉ばかりだ。空の島というのだから、やはり空に浮いている島なのだろうか。よくわからない。もしかしたら雲の上に人が住んでいるのかもしれない。そんなことは万に一つもあり得ないだろうが。

「なあ、どう思う?」
「………何がだ」
「やっぱりあり得ないなんてことはねェんだろうな。あり得ないことがあり得ない、か」
「ひとりで納得するんじゃねえよ!」
「やっぱり、あるんだろうな」
「なめてんのか、てめぇ!」

 俺は横目で、唸るユースタス屋を見る。かすかに殺気を放っていた。全くどうしようもねェやつだな。それからまた視線を上へ戻した。俺は待つのが得意だ。その気になれば空を見ているだけで、一日くらいは余裕で暇をつぶせる。この間飯も食わずにそれをやっていたら、船員たちに怒鳴られた。せめてしっかり飯くらいは食えとさんざん文句を言われた。一日くらい抜いたって死にゃあしねえし、むしろ毎日食事が食える方がおかしいんだと反論したら、幸せは享受するもんだとさらに言い返された。幸せは受けられるうちに受けておかないと後悔するらしい。年もあまりかわらないはずの奴らにそう諭されるのは、少しだけ腹が立った。だがあいつらの考えはあながち間違っちゃいないとも思ったので、尚更腹が立った。言い返せないことほど悔しいことはない。
 言い返せないというのは、要するに俺の考えが浅かったということであって、つまり俺の「負け」だ。俺は口で負けた。今度あいつらと討論とか議論とかするときにはどう云い負かしてやろうか。常にそんなことを考えているから、俺には暇なんてない。どんなときだって俺は懸命に頭を使っている。脳は使わないと、剣と同じで錆つくらしい。神さびる分には問題ないんだが、と言ったら、船長は神なんて信じていないでしょうと呆れられた。

「…おい、トラファルガー。てめぇいつまでそこに居座るつもりだ?」
「考え事をしていた。邪魔をするな」
「斬られてえのか!」
「邪魔をするなと言ったんだ、ユースタス屋」

 この野郎、とこぶしを振り上げたユースタス屋にかまっている場合ではない。何を考えていたか忘れてしまうではないか。人間というのは不思議なもんだ。一瞬前まで考えていたことが、僅かに思考回路を乱されただけですぐに記憶から消し飛んでしまう。便利なようで実に不便な能力だと思う。この間だって俺は宇宙の真理に到達できるかと思ったのだが、カポネ屋とジュエリー屋の闘争に巻き込まれたせいですっかり忘れてしまった。本当に迷惑な話だ。記憶力を増大させる悪魔の実があったらむしろそっちを食べたかった。この能力に不満があるわけではないが。
 そういえばこの能力は大変便利だ。俺は立ち上がる。「ROOM」、こうしてサークルを発動させる。ユースタス屋がぎょっとしてこちらを見た。それから空間内にあるものをきちんと認識する。認識することが大切だ。俺の後方にある酒樽(おそらく中身が入っている)。俺の腰かけていた木箱。風雨にさらされたのかずいぶん朽ちている。それから前方のユースタス屋。ものの場所を入れ替えるだけだ。「シャンブルズ」、本来は人間の手足を切断してバラバラにくっつけてやるのが楽しいのだが、今回はそんなことをしても余計な「混乱」を招くだけだ。大混乱に乗じて起こる混乱は好ましくない。
 目の前からユースタス屋は消えていた。

「……!?」
「道、開けてくれてありがとさん。俺は行く」
「て、てめえ!何しやがった!」
「物体を移動させただけだ。見てわからなかったのか?これ以上の意地の張り合いは時間の無駄だ」
「おい、待ちやがれ!」
「なんだ、まだ用事があるのか?用事があるんだったら時間はずいぶんたくさんあったのに」
「ごあいさつじゃねえか。テメェさっきから、いったい何がしてえんだ?俺を怒らせてえのか?
 喧嘩を買わせてえのか?」
「だから、言ってるだろう。何もしてねぇよ」

 肩越しにユースタス屋を振り返る。予想通り苦々しい顔をしていた。紅を引いた唇が歪められている。眉間に皺を寄せてあいつは怒っていた。俺は一つ笑うと、いつもどおりに背中を軽く丸めて歩きはじめた。まだ何か喚こうとするユースタス屋に中指を一本だけ立ててやった。次の瞬間銃声がして、俺の耳たぶからほんのわずかに遠いところを弾丸が掠めていった。全く態度の悪いやつだ。もう少し大人になることを覚えたらどうか。
 ふと空を見上げると、先ほどの白熊はもう塒へと消えてしまっていて、代わりに一番星がかすかに空の果てに見えた。

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