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二次創作に関することを中心に後ろ向きに呟いております
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追記からどうぞ

 特に大きな騒ぎがあったという情報は聞かなかったのに、妙にへとへとになって戻ってきたキッドを俺は不思議な心持で迎えた。腰の酒瓶はいつの間にか空になっていて、どこで開けて誰と呑んできたのか全く見当もつかなかった。あと一つわかっていることは、今日のキッドはやたらと機嫌が悪い。朝はそこそこ上機嫌で出かけて行ったはずなのだが、一日の最初と最後でどうしてこうも顔色が変わるのだろうか。長い付き合いだからこそ言えるが、こいつの悪い癖だ。
 キッドがどさっと椅子に腰をおろすと、少し古びた木の椅子は軋んだ音を立てた。ただでさえ質量のあるコートを着ている上にやたらと勢いよく座るものだから椅子としては堪らないだろう。俺は水をコップについでやるとキッドの前のテーブルにおいた。

「あの酒はキツかったろう。どこで飲み干してきたんだ」
「……外だ」
「ひとりでか?」
「トラファルガーと、だ。まあ、半分間違っちゃいるが」

 良くない状況で飲み干してきたらしい。俺はキッドの前の椅子に腰かけた。それにしてもトラファルガー・ローか。俺もその場にいれば、ひょっとすると死合えたかも知れない。しかしキッドがかすり傷一つつくっていないところを見ると、トラファルガーがあまりにも弱かったか、もしくは口論だとかそんな調子で終わったのかもしれない。おそらく後者だ。それにしてもキッドは疲れていた。
 ふーと長いため息をつくと、俺の注れた水を一気に飲み干した。俺は黙って二杯目を注いでやる。今度は半分まで空にした後、コップをテーブルに戻してしばらくそれを睨んでいた。水面にキッドの顔が淡く映っている。忌々しげに再びコップを手に取り、残りを一気に空けた。全くどうしようもなく機嫌が悪い。キッドの一番性質の悪いところは、本当に機嫌が悪い時には一切何も語りだそうとしないところだ。面倒くさいやつだ。そのうえ途中で席をはずそうとすればどこへ行くんだと低く唸る。今でこそ慣れたものだが、出会った当初は幾度か腹を立てたものだった。

「キラー」
「どうした?」
「一時間暇な時間があったとする。何をする?」
「…………急に何の話だ?…
 まあ、そうだな。特に何もしない…いや、軽い体操ぐらいならするんじゃないか」
「空を見ると楽しいと思うか?」
「空?」
「空だ」

 俺は腕を組んだ。察するに、今日のキッドはトラファルガーと根競べでもしていたのかも知れない。今までの言動とキッドの性格から察するに、だから、かなりの憶測を含んでいるが。一時間耐久で何かをしていたのだろう、おそらく。キッドは基本的に無趣味だ。酒は好きな方だと思うが、それでも無趣味だ。本もめったに読まない。知識を得るために書かれた類の本は読んでいるが、娯楽要素を含んだ本をキッドが読んでいるところは見たことがない。喧嘩を良く売るが、あれは趣味ではないだろう。道楽とか海賊としての性とか、多分そっちの部類だ。トラファルガーの趣味はきっと空を見つめていることだ。しかも今日は外で飲んだという。空は無限の可能性を秘めている。そういうのが趣味な者なら、きっといくら見つめていても、何時間だって飽きることはないだろう。そして、そういう理由で、キッドは根競べに負けたのだ。
 しかし空を見つめるのが趣味というのもかわっている。かわっているというか、今まで新聞を騒がせてきた内容が内容だけに、一致しない。あんなおぞましいことを平気でやってのける男の趣味が、空を見ること。俺は小さく笑った。キッドがすかさず何がおかしい、と鋭くとがめた。

「空か。俺はあまり見ないな。天候を伺うときにしか見ない」
「そうだろうが。いったい何が楽しくて空なんて見るんだ」
「真似してみたらどうだ?意外と趣味になるかも知れないぞ」
「あんな野郎と一緒の趣味なんて持ちたくねえよ」

 粗方俺の予想は当たっているようだ。

「ところで、酒は美味かったか?」
「美味いわけねえだろうが!…くそ、本当に忌々しい野郎だぜ。次にあったらぶった切ってやる」
「フフ………自棄酒というのは良くないが、一本冷やしておいた。飲むだろう?」
「………ふん」

 俺は立ち上がると、冷蔵庫を目指した。飲むだろう、といった途端に、キッドが無意識にはなっている殺気が消えたのは面白かった。物が雑多に詰め込まれた冷蔵庫を探り、キッドの帰ってくる数時間前から冷やしておいたサウスブルーの銘酒を一瓶抱えて、それとグラスを一つ持ち、椅子へ戻る。酒を飲むのに仮面をしていてはやっていられない。俺は仮面をごとりと床に置くと、コルクを抜きにかかった。しばらくキッドは黙って俺の指先を見ていたが、やがてじっと俺の顔を見ると、やっぱりお前仮面は似合わねえなと失礼なことを言った。人のセンスにケチをつけるものではない。俺は少しばかり笑うと、キッドのグラスに並々と酒を注いでやった。
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